私っていい人ぶってるだけ
「私って、いい人のフリをしているだけ」
私自身、そう思ってた時期もありました。
人前ではいい人を演じているだけで、本当はそんなんじゃない。
後ろめたさが払拭できず、息苦しくなるのですが・・・。
しかし、最近は考えが変わってきました。
「あたくし、そんなおっしゃるほどのいい人間じゃありません」
「いいえ、そうなんです。あたくし、ズルいんです」
小津安二郎監督の名作「東京物語」
原節子さん演じる紀子が、長いまつ毛に影を落としながら、義父にホロリと吐いたセリフです。
急な来訪にもイヤな顔ひとつせず、会社を休んでまで東京見物に付き添い
義母の葬式後、バタバタと帰る義兄・義姉たちを横目に、義父の世話を買ってでる・・・
「おとうさま」
ひまわりが咲く笑顔で、いつも出迎える紀子ですが。
時折みせる憂いな横顔に、狡猾な思いも宿るのでしょうか。
1日24時間べったりと、ともにいるのが「自分」という存在。
人と接する時間よりも圧倒的に、舞台裏での時間が長いですよね。
知人の近況に胸を痛め、心から手を差し伸べようとする自分もいれば
その一方で人の失敗を笑う自分。内なる怒りがなかなか収まらない自分も・・・。
バックヤードには、あらゆる感情が出入りします。
本当は黒さも持ち合わせてるけど、人前では無かった風に接してしまう。
それが嘘くさくて・・・。
紀子のよう、自分に厳しめなひとほど、嘘くささをごまかせないのでしょうか。
舞台の役者さんは、普段の自分を脇において、与えられた役割を演じきります。
目の前の観客の前で、最高の自分をお見せするためです。
市井に生きる私たちには、人目に触れる場面がそうといえるでしょう。
自分の人生、その舞台のなかで
目の前に相手が現れたとき
出来るだけ「一番イイ自分」を差し出そうとするのは、ごく自然ではないでしょうか。
相手の人生と交わった かけがえのない一コマを尊重する
その具体的な手段が
誠実にふるまうことであり、親切であることなのだと私は思います。