6才のボクが、大人になるまで
ある家族の12年間にもわたる軌跡を淡々と描いた映画なのです。
通常の映画なら、子役と青年役は別の役者が演じますよね。
それがナント! 母・父・姉・弟(主役)、それぞれのキャストを全く変えず、ラストまで一人の役者が演じきったのです。
12年にもわたり断続的に撮影を行い、1本の映画に仕上げていったのですから、もう驚異としかいいようがありません。文字通り、6才の可愛らしいボクがヒゲ面の青年へと成長していく姿がシームレスに描かれていました。
映画のなかで、取り立ててドラマチックな出来事はありません。パトリシア・アークエット演じる母が言い放つラストの一言が、この映画を端的に表現しています。
「私の人生が消え去ってゆくみたい、煙のように。
大きな出来事といえば、結婚して、子供産んで、離婚したこと。
あなたが失語症じゃないかと心配したり、自転車の乗り方を教えたこと。
それからまた離婚して、修士号を取ってから、望む通りの職について、サマンサを大学に送り出し、あなたも大学に送り出し・・・。」
よくあるハリウッド映画では、非日常の世界へと観客をボーンと放り込みます。
観る側も、虚構にどっぷり漬かって楽しむという感じでしょうか。
この映画は、それとは真逆です。スクリーンに映し出されているのは、私たちが常日頃なじんでいる日常の世界。
親子のあいだで交わされるセリフも非常にリアルで、
「どこの家庭でも、いや、国が違っても、子供ってこう言い返すんだなぁ・・」
と妙に感心するばかりでした。
家庭で起こる悲喜こもごもは、よくある話です。
ハリウッド映画に慣らされた視点で観ると、物足りなさを感じる向きもあるでしょう。
しかし、どうでしょうか。
- 子供が自転車に乗れるようになった日のこと
- 寝る間も惜しんで勉強してようやく、修士号をとれた日のこと
- 子供たちを無事に、大学へと送り出せた日のこと
どれも人生の中でも、心を揺るがす一大事ではないでしょうか。
私たちは人生を振り返るとき、つい大きな出来事だけに目を向け、それだけに意味を与えようとしてしまいますが。
しかし、本当はそうではなく。
他愛のない友達同士の会話、父親が息子に語り続けた時間などなど。
どの日、どの瞬間をとっても、私たちに生きていく意味を与えてくれるものではないでしょうか。
本作品では、6才のボクが家を出て自立する青年へと成長していく姿を、2時間半の流れの中で見守ることができます。
私もまるで、親戚のおばさんのように、ボクの成長を見届けました。もし、守護霊という存在があるならば、こういう視点なのかもしれません。