君の膵臓を食べたい

天真爛漫でクラスの人気者だった咲良。
クラスメイトの僕(名前は明かされない)が、周囲にひた隠しにしてた咲良の病気を偶然知ったことから、ストーリーは始まりました。

友達を作らず、いつも一人で行動していた僕に、咲良は何かにつけ近づきます。
戸惑いながらも一緒にいるうちに、僕も少しずつですが、打ち解けていきました。
二人が距離を縮める間にも、病いは静かに進行していきますが・・・。

咲良は昭和の少女マンガを地で行く、友達思いで可愛いキャラクターなのですが。
そんな彼女にも人知れず、影を背負ってました。

余命いくばくもない病気のことを、親友にさえ告げられず。
家族の前で、弱音を吐けませんでした。

周りに心配させたくない、悲しませたくない、彼女の優しさがそうさせるのでしたが。
自分の弱さを人にみせる勇気をもてず。
相手が取り乱す様を、受け止める自信がなかったのでしょう。

まだ16歳。自分の弱さと、これからいくらでも向き合えるはずですが。
彼女にはその時間が与えられなかったのです。

そんな咲良の前に現れたのが、僕でした。
咲良の事情を知った後も、我関せずと同情すらしません。

いつも一人でいて何が悪い?
他人からどう思われようとお構いなしです。

学生時代は、学校が世界の全て、そう言って過言ではありません。
そこで、孤独をものともしない人がいるのは、私にとっても驚きです。

ずっと気になっていたんだ・・・後に咲良は僕にこう告げます。

咲良と僕は、太陽と月。
陰陽のコントラストです。
お互いの存在は、これまでの人生で育ててこなかった、もう一人の自分でしょう。

「友達をつくって、人とちゃんと関わって、生きてほしいの」
他のクラスメイトとは決して交わろうとしない僕に対して、熱く訴える咲良がいました。

君の膵臓を食べたい
身体で悪いところがあると、動物のその部分を食べることで良くなるらしい。
昔の人が信じていた言い伝えを、僕は咲良から聴きました。

命とは何かを僕に語りかけた咲良の生きた証が、僕の心に宿り、時間とともに育っていくのです。

赤ちゃんがよちよち歩きで、一歩ずつ大地を踏みしめるように、僕もおそるおそるですが、人と関わりはじめました。

「わたし、生きたい。大切なひとたちのなかで」

まもなくこの世を去る 静かな時間のなか
僕に宿った、咲良の願い。

臓器のように働きかけ、新しい僕へと導いてくれます。
亡くなった人たちがこの世に遺した意思を食べながら、私たちはこれからも生きていくのではないでしょうか。