ドリーム
人種差別や男尊女卑がまかり通った1961年頃、NASAに雇われた黒人女性3人が奮闘する姿を描いています。
今から50年前以上も前のアメリカ。人種差別が横行し、乗り合いバスもトイレの場所も全て、肌の色で分けられていました。
境遇を嘆き悲しむだけでは、何も変わらない。
人間としての当たり前の権利を求め、黒人たちは手と手を取り合い、キング牧師を中心とした公民権運動に身を投じたのです。
本作品に登場する黒人女性たちも、地位向上のため闘いました。
ただ、闘い方が違っていたのです。
黒人が就く職業も限られていたなか、キャサリン、ドロシー、メアリーの3人の黒人女性たちはNASAで計算士として働くことができたのですが。
そこには、人種差別の壁が大きく立ちはだかっていました。
キャサリンが新たな部署に配属された翌日、それまで1台しかなかったコーヒーポットの横に、小さなコーヒーポットが用意されました。
キャサリン専用、つまり非白人用のポットで、白人用のと分けられたのです。
彼女たちは忸怩たる思いを抱えながらも、声を荒立てて権利を主張することはありません。
自分の存在を認めてもらうために必要なことは、たった一つ。
正面突破を目指しました。
天才的な数学センスを持つキャサリン。
周りがなかなか解けない数式をマルっと解き明かします。
「わたし、失敗しないから」
まるでNASAの大門未知子かのように。
施設に非白人用トイレが無かったキャサリンは、800m先の施設にある非白人用のトイレまで毎日走らなければいけませんでした。
事情を知った上司であるハリソンは、施設の白人トイレを、キャサリンも利用できるようにしたのです。
ただし、ハリソンがキャサリンの便宜を図ったのは、黒人の待遇を不憫に思ったからではありません。自分のチームのミッションを果たすため、キャサリンに仕事に励んでもらいたかっただけ。
実力主義の彼は、彼女の能力を高く買っていたにすぎなかったのです。
公民権運動の時代。大勢の黒人が粘り強く、黒人の権利向上を訴え続けた結果、ついに人種差別撤廃に結実したのですが。
黒人たちが血を流した分、白人たちも痛みを背負ったでしょう。
黒人の権利を認めるということは、今まで自分たちが、人間としてしてきたことの誤りを認めることになるからです。
才能 - それは一種の聖域で、肌の色も性別も人格も関係ありません。
才能という武器による正面突破は、人の道徳心に訴えることがない分、どこまでもフェアです。
ドクターXが人気なのも、実力だけで周りを黙らせる姿が爽快だからでしょうか。
本作品の3人の黒人女性たちも、才能に肌の色は関係ないことを証明していったのです。
人生を切り開く上で、才能は大きな武器にはなりますが。
どのくらいの武器になるかは、冷静に見極めないといけないでしょう。
時代が求めるものか
希少価値があるものか
この2つが合致した上で かつ ズバ抜けたものであるならは・・・
本作品の女性たちのよう、人種差別さえも吹き飛ばす効力を発揮します。
ただし、これらの条件の一つでも失ってしまえば、どれだけの才能があったとしても、一発退場の危機にさらされます。
フェアであることは、冷酷であることと同義だからです。
それでも、強力であり折れやすくもある、諸刃の刃を授けられたとしたら、上手に使っていくのが義務でもあり、運命なのでしょう。
人種差別が酷かった時代に、NASAの宇宙計画を寄与した3人の黒人女性がいた。
この事実を50年以上経てから、遠く離れた日本に住む私にまで届きました。
自分を信じて、奮い立たせる原動力を伴って。