メアリと魔法の花
スタジオジブリから独立(ご本人たちはリストラと・・・)された米林監督と西村プロデューサー。この二人が設立したスタジオポノック社、初の映画となりました。
宮﨑駿という高い壁、スタジオジブリ出身であることの期待とプレッシャーはどれほどだったでしょうか。その中で船出をしたお二人の応援もかねて、公開すぐに観に行ったのです。
メアリの伯母であるシャーロットのセリフです。
「この世界には私たちには扱いきれない力があるのよ」
目立って取り柄のない普通の女の子が偶然に、魔法のチカラを手に入れたところから物語が動き始めました。
箒にまたがり、空を駆け抜けたあとにたどり着いたのが魔法学校です。
魔女学校の校長やデイ博士も、昔は良心的な人たちだったそうですが。
巨大なチカラを持つ魔法の花(夜間飛行)の存在を知ったあと、自分たちが思う通りの世界を創ろうと躍起になっていました。
魔法の世界がもし実際にあるとしたら、ですが。
私たちが生きる世界から離れ、はるかかなたの遠くにあるのでしょうか。
いや、意外にも私たちの足元にあるのかもしれません。
今から300年以上前に思いを馳せてみますと。
私たちの祖先は井戸で水を汲み、馬や牛を動力にして、物を運んでいました。
ごはんを食べるために火をおこし、薪をくべて、その場で火加減を見ながらお米を炊いてたのです。
それが現在ではどうでしょうか?
あらゆる工程をすっとばし、ボタン一つでごはんが炊き上がります。
台所の蛇口を回せば水が飛び出し、スイッチをひねればコンロの火がつきます。
ほんの数百年前の人々が、21世紀の様子をみたならば・・・
それはまさに、魔法の世界としか見えないのではないでしょうか。
数百年もの間で、地球を魔法の世界へと変えたのものがあります。
「電力」
これまで何段階もあった段取りをすっとばし、短時間で目的を果たすようになりました。
電力という魔力を使うことで、世界は様相がガラリと変わったのです。
科学の進歩は、私たち人間に大きな恩恵を与えましたが。
これ以上、まだまだ・・・と欲望も増大する一方です。
自分たちが扱える能力を超えたものまで出現させてしまいました。
ついには原子力のような、扱い方次第で人類を滅亡に導くものを作ってしまったのです。
魔法学校の校長や博士は、自分たちが手に入れた魔力を使って、今の生物をはるかに超える動物や人間さえも創り出そうとしましたが。
それは、人間さえも凌駕する人工知能を創り出そうとする姿を彷彿させます。
元々は人間の役に立つ存在として期待されたのが、人工知能です。
ただ原子力をも生み出した今の人間では、どうでしょうか。
自分の欲望を増幅させる装置として、人工知能を発達させてしまう可能性があります。
今盛んに議論されてることですが、人工知能が人間が扱いきれないチカラを獲得したとしたら・・・どうなるのでしょうか。
それは人工知能側ではなく、作る側にも責任が生じるのではないでしょうか。
人間は創造したい欲求も、破壊したい欲求も併せ持ちます。
誰しも、善悪をあわせ持っているのです。
人間は、魔法を作り出せる存在となりました。
その魔法はもはや人間だけでなく、地球上の生物全体の命に関わるものです。
能力を手に入れた存在には、制御する責任が問われます。
人間存在というものを真摯に見つめ直し、欲望と向き合う覚悟が必要ではないでしょうか。
「魔法なんていらない」
主人公メアリは映画のラストで、こう叫びます。
私たち人間は、電力という魔力を無条件で手放すことができませんが。
一人一人が己の欲望を見つめた上で、手に負えないものは潔く手放す必要があるでしょう。
そうすることで、人間が育ててきた魔法を、人間や地球と調和したカタチで活かすことができるかもしれません。