マイ・インターン
出世作「プラダを着た悪魔」では、モンスター上司相手に孤軍奮闘しながら成長していく女性をキュートに演じたアン・ハサウェイでしたが。
今回は、短期間でインターネット系通販会社を急成長させ、数百人の社員を率いていく女社長を演じています。
アン・ハサウェイ演じるジュールズの会社では社会貢献の一環として、シニアインターンを募集することになりました。生きがいを求めて、応募してきたのが、名優ロバート・デ・ニーロが演じる70歳を迎える男性 ベン です。
日本でも時おり、シニアの再就職のハナシは聞きますが。
自分のやり方に固執し、人の意見を聞き入れようとしない。
「オレが若い頃は・・」と、昔の武勇伝を語りたがる・・・など
「定年後に採用されたシニアは、どれだけ使いにくい存在か」を切々と訴える記事を、よく見かけたりします。私も映画を観る前は、ベンってそんな役回りなのかなぁ・・と予想してみたのですが。
全くの見当違いでした。
「えっ、こんな初老男性って どこにいるの?」
もし「理想のシニア ベスト10」といったランキングがあるとしたら、文句なしの1位を獲得すること間違いありません。
こうあってほしいシニア - 私たちの期待の寄せ集めを、全て体現した男性でした。
会社員時代の彼のキャリアから言うと、いくらシニアとはいえ、社長ジュールズの雑用係に甘んじるのは、通常はやりきれないでしょう。
しかし彼は文句ひとつ言わないどころか、社長のスーツのしみ抜きといった雑用など、頼まれた仕事をひとつ一つ丁寧にこなします。
知識も経験も豊富なのに、ひけらかすことは決してしません。
年下の同僚から相談されたときは、ひとこと簡単に、しかも的確なアドバイスするだけです。
ジュールズがある困難を前になすすべもなく立ちすくんだときも、ベンなら人生の先輩として、いくらでも助言が出来たはずでした。
しかし、彼が助言の代わりに言ったのは、次のとおりです。
「いかに あなた(ジュールズ)は素晴らしいか」
「どれだけのことを成し遂げてきたのか」
本心から伝える言葉はジュールズの心を打ち、彼女は自信を取り戻していったのです。
ベンが褒めたたえるのは、社長ジュールズに対してだけではありません。職場にて、自分のお手柄にしてもいいことですら、同僚に譲り、その人が褒められるようにもっていきます。
誠実で控えめで、常に周りの人をレスペクトするベンの在り方に、職場の誰もが信頼を抱くのに時間はかかりません。
・・・などなど、ベンの素晴らしさを列挙すると、キリがありません。
長く生きていけば、色々なことに揉まるなかで、いつかは人生を達観できるようになるのかなぁ・・・と、若き日に淡い期待を抱きましたが。
何十年も生きてきたはずのワタシ、未だに期待のままです(苦笑)。
丸みが帯びるどころか、今でも自分のお手柄は自分のモノにしたいですし、人から相談されたら、ここぞとばかりに持論を展開してしまいます。
達観とはほど遠い、ジタバタな私だからこそ分かるのです。
年を経て、知識や経験を重ねただけでは、人格的に円熟してこないことを。
ベンがどういった心のありようで、人柄をここまで成熟させていったのかは分かりませんが。
金銭的な成功よりも、はるかに難しい偉業かもしれません。
かつて、ヒーロー・ヒロインといえば、自らが放つ魅力や能力によって、多くの人に憧れられる存在を指していました。でも、今は勝手がちがうのではないでしょうか。
ワタシが輝いていたい。
ワタシの才能を発揮して、世の中に貢献したい。
良くも悪くも自己愛的で、ネット上で充実ぶりをアピールする昨今では、ジェールズのような成功者でさえ供給過多かもしれません。
むしろベンのように、他人をとことん輝かせる存在こそが、多くの人から支持されるヒーローではないでしょうか。