心に忍び寄る魔物と
この正月はノンビリ出来たので、ずっと観たかった作品を観ました。
「ツナグ」
辻村深月さん原作で、松坂桃李さん主演で映画化もされましたね。
先祖代々、死者と生者をツナグ役割を担う一家に生まれ育ったのが、松阪さん演じる「アユミ」です。アユミは口コミで「使者(ツナグ)」を知った依頼人から事情を聞き取り、樹木希林さん演じる使者(アユミの祖母)と、死者との橋渡しを行っています。
映画では3名の依頼人が現れますが、中でも印象に残ったのは橋本愛さん演じる嵐美砂のパートでした。
嵐は高校生で、演劇部に所属しています。同じく演劇部に所属する親友・御園と演劇の練習に励んでいたのですが。自分が選ばれると思っていた劇の主役に、御園が抜擢され、嵐のプライドがズタズタに引き裂かれます。
自分より劣っていたはずの親友が選ばれたこと その嫉妬 やるせなさ
親友の抜擢を素直に喜べない 心の狭さ
様々な気持ちが折り重なって燃え盛り、抑えきれなくなった嵐は追い詰められ、ある行動に走ります。
その翌日、御園は事故で亡くなったと知って、嵐は凍りつきました。
自分がしたことが、もしかして・・・。
嵐がした行為は、いわゆる「未必の故意」です。
その行為が、御園の命も奪いかねないことも、心の片隅にありました。
でも、どうにも止まらない。
狂おしく燃えたぎる気持ち。嵐にはどこにも逃げ場がありません。
決して、御園自身が死んでしまえとは思わなかったでしょう。
自分を苦しめる業火を消し去りたい、その一心だったかもしれません。
狂気にかられた人間の 狂気の沙汰。
映画のなかでは、事故の原因が嵐の行為によるものとは断定していません。
何も知らない御園のお母さんは、嵐に形見まで手渡してくれました。
しかし、本人は知っている。
あの日、してしまったこと。取り返しがつかないこと。
御園には悟られていたかもしれないが、誰にも知られることはない。
しかし、自分の歴史に刻まれた爪痕は無かったことにはできない。
これからの人生、重い十字架を背負って生きていくことになるのです。
この先、どれだけ幸せなことが起きても、黒いシミを拭うことはできない・・・
心のスキマに忍び込んでは狂気へと導く「魔物」。
橋本愛さんの渾身の演技が、さらに心が震わせました。