愛の渦
「みなさん、すごいスタイルいいですね・・・」
「いや、私、最近3キロくらい太って・・・」
「えーー、痩せてますよ」
「私、キャベツダイエット始めたんです」
「いま、それ流行ってるんですよね・・・」
どこででも聞こえそうな、女性同士の会話ですね。
しかし、この会話がなされているのは、職場やカフェではありません。
見知らぬ男女数名が、セックスのみを目的に集まる秘密クラブ(乱交パーティ)の場です。
ということで、「愛の渦」という邦画について語ってみます。
2時間にわたる上映時間のうち、着衣時間は18分半 というセンセーショナルなコピーもさることながら、女性客が殺到したというのも話題となりました。
男女が出会ってすぐ肌を重ねる場所というと、すぐに臨戦態勢なツワモノたちが集まっているのかと想像してしまうのですが。
スクリーンの中にいるのは、ごくごく普通の男女でした。
「この場所って、分かりづらくないですか? 私、道に迷いましたよ。」
「あの、みなさんのご職業は・・・」
会話だけ取り出すと、合コンかPTAの会合と何ら変わりありません。
非日常の場でタオル1枚の身でいても、ふるまいは「日常の自分」そのもの。
それではどうぞと支配人に言われても、居合わせた者同士、何をどう始めたらいいのか分からず、ぎこちないまま時が過ぎていきます。
「この前の時は、男性が話し合って決めてましたよ」
前例に従ってその場のルールを決めようとする辺りも、いかにも普通のひとです。
それでも一組カップルが出来ると、あとは芋づる式で営みが始まります。
R18指定のベットシーンは鬼気迫るものの、女優たちの声も大げさで、どことなく演技を感じさせるものがありました。
逆にですが、私はそこにリアリティを感じてしまったのです。
他者たちの気配を感じつつ、本能のまま快楽に溺れる自分。
それを冷静に見据える、もう一人の自分。
女優さんたちのリアルに「演じる姿」が、どこまでも成りきれない「何か」を絶妙に表現している感じがしました。
いつもの鎧を脱ぎ捨てて、本当の自分をさらけ出してみたい・・・
そんな思いなら、共感できる方も多いのではないでしょうか。
鎧が重ければ重いほど、「こんな自分」を容易には見せられなくなってきます。
だからこそ、登場人物たちは名前も明かさず、ただの記号となれる場所を選んだのかもしれません。
しかし、「本当の自分」というのは、意識の上では掴めそうで掴めないものだと私は思います。
全てを脱ぎ捨てたとしても、ただの記号にはなりきれない、それをも人間の本性ではないでしょうか。
「たぶん、あそこにいたのは、私じゃないんだと思います」
「僕はあそこにいたのが、僕だと思ってますけど・・・」
主人公の男女二人が、最後に交わしたセリフに全てが集約されているように思えました。
設定は奇抜さですが、とても巧みに人間の心理を描写している良質な作品です。
夜こっそり観てみるのも、親に隠れて・・・的な思春期の気分が蘇ってくるかもしれません(笑)