死はそれほど遠くはない
それは突然 目の前に広がった
真っ白というより色がない 音もない風景
永遠に続くかのような ほんの一瞬のなかで
ガツン
頭に受けた衝撃が、転倒事故の瞬間に引き戻しました。
ヤバイ・・・どうやら頭のうしろ辺りを打ったようだ・・・。
でも、意識はある。
言い聞かせるように起き上がった途端に、滝のように流れ落ちるものに気づいたのです。
ポタポタポタ、赤く染まりゆく地面に無言でみつめる私。
心許なく怯える子犬のよう、救急車を待つしかありません。
大怪我でもおかしくない状況でしたが。
CTやレントゲンの結果、幸いなことに異常はありませんでした。
数針縫って、自宅に戻れたのです。
転倒のケガで、意識を失うことはよくあるそうですが。
倒れたときも 起き上がったときも
私の意識は、片時も身体からは離れませんでした。
むしろ、普段よりも鮮明ではと錯覚するほどに。
しかし、すぐ隣にあったものを感じました。
透明のカーテンの向こう側に・・・
状況によっては 打ちどころによっては
カーテンをくぐり抜けたかもしれません。
恐怖を感じる暇もなく、すっと意識が離れ
シームレスに 彼岸へと越えていったかもしれないなと。
映画や小説では、死をドラマチックに描いています。
アチラへ向かう者と ココに残る者
両者の間には、絶望的なほど高い壁がそびえ立つかのよう
しかし自分たちが思っている以上に、その境目はゆるいのかもしれません。
壁ではなく、ひらひらと風に舞うカーテンのように。
日本では平均寿命は伸びる一方で、そうめったに人は死なないと勘違いしますが
命は強さと脆さを併せ持つもの。
人の生命力には、目を見張るほどの底力がありますが。
失うときは、たまごが割れるがごとくでしょう。
ボタンのかけ違いで、私も前回で遺筆になったかもしれません。
メメント・モリ -死を想えという意味ですが。
死はそこにある
そして 私は 生きている
いや、生かされているのでしょうね、きっと。