【エッセイ101】映画を撮るときは
「映画を創るときって、バラバラに撮影して、最後に編集でつなぎ合わせるんだよね。」
20年に渡って、300人を超えるクライアントさんに、目標達成や課題解決のサポートを1対1の面談(セッション)で提供してきました。
ですが、コーチの仕事はセッションだけではありません。
管理職にコーチングの研修をすることもあれば、教材や資料を作成することもあります。あるいは、お客さんに送るニュースレターを執筆したり、コラムを書いたりもします。
こう書くと、色々な仕事をしているように見えますが、一言でまとめるとやっていることは「コンテンツ」作り。
実は、この「コンテンツ」作りが、ずっと苦手でした。
作っている最中に、
「この文章は、読みやすいだろうか?」
「何を書いたら、興味深く読んでもらえるだろうか?」
「教材の項目は、まとまっているだろうか?」
「もれたり抜けたりしている項目はないだろうか?」
といった「これでいいんだろうか?」という声が頭の中に聞こえてくると、手がピタっと止まってしまい、それ以上、前に進めなくなるのです。
研修のプログラムや教材を作るときも、ニュースレターやコラムを書くときも同じ。
作れなくなるし、書けなくなる。
トンネルを掘っているときに、硬い岩盤にぶつかってしまうと、もうそれ以上にっちもさっちもいかなくなる。そんな感じです。
締め切りがあるので、最後はなんとか帳尻を合わせますが、この岩盤にぶち当たって前に進めなくなる感覚がイヤでイヤで仕方がありませんでした。
そんなある日、友人とカフェでお茶をしていたときのこと。
どういう経緯で、この話題になったかは覚えていませんが、コンテンツ作りがいかに苦手かということを、どうやら力説していたらしいです。
そんなに熱く人に語るような話題ではないですが、まあ、そのとき作っていたコンテンツが思い通りになかなかできなくて、いら立っていたんでしょう。とにかく誰かにぶちまけたかったんですね。
ひとしきり、こちらの話を聴いてくれた後、
「そういえば、映画を創るときって、バラバラの順番で撮影して、最後に編集でつなぎ合わせるんだよね。」
友人が何気なく、ボソッと独り言のようにつぶやきました。
「ふーん、確かにそうだね。そういえば、ビートたけし、あっ、北野監督も、同じようなシーンはまとめて撮ると本に書いてあったな。」
そんなことを話しながら、そのときは特に何もなく、友人と別れました。
が、家に帰って書斎の椅子に座ったとき、友人の言葉がリフレインしたのです。
「映画は、観客が見る順番通りには撮影していない」
「バラバラに撮って、最後につなぎ合わせる」
その瞬間、頭の中にパッと光が!!
「そうか、研修プログラムも順番を気にせずに作って、最後につなぎ合わせたらいいんだ!」
「コラムもニュースレターも、思いつくことから書き始めて、あとで編集すればいいんだ!」
「コンテンツを作るのが苦手だ」という岩盤のような強固な考えが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた瞬間でした。
実際に映像の仕事をしている人や、ライターの方にとっては、何を当たり前のことを言っているんだと笑われるかもしれません。
けれども、世間にコンテンツとして出回っている映像や本は、最初から最後まで順番に見たり、読んだりする前提で作られています。
そんな完成品ばかりしか私たちは目にすることがないですから、実際の制作の現場を知らない自分がコンテンツを作ろうとすると、順番通りに作らないといけないと思い込むのも仕方ありません。
私はというと、これまで何かを創ったり、書こうとしたりすると、調子が良いときほど、連想ゲームのように、一つのアイデアが別のアイデアを生み、そのアイデアがまた別のアイデアにつながり…… といったように、どんどん別のことが浮かんでくるんですね。
だから、順番通りに考えて、順番通りに作ろうとすることが、そもそも体質に合わなかったのです。
このことに気づいたとき、ふとジグソーパズルが浮かびました。
同じような絵柄のピースを集めて、ある程度まとまった絵をいくつか作る。
そして、あるまとまりと別のまとまりとを最後に繋げ合わせ、一つの絵にして完成させる。
左上隅から右下隅に順番に一つずつ当てはまるピースを探して、はめ込んでいくというやり方もできなくはないでしょう。ですが、前者のほうがそれよりはるかに早く完成するでしょう。
もし、あなたが、「コンテンツを最初から作ろうとするけど、どうもうまくできない、なかなか進まない」と、いら立ったりすることがあれば、少し立ち止まって、こう問いかけてみてください。
「自分は、最初から順番に一つ一つ考えを積み重ねていくタイプか? それとも、バラバラに考えが浮かぶタイプか?」と。
仮に、あなたが後者だったとしても大丈夫。
コンテンツの作り方は一つではないし、まして、最初から順番に作らないといけないなんて法律はありません。無理にあなたらしさを「順番通りに」押し込める必要なんて本当はないんです。
「最初から順番通りに作らないといけない」その強固な岩盤のような思い込みが崩れたとき、あなたも私も、もっと自由にのびのびと作りたいものを作り、書きたいものを書くことができる世界に行けるでしょう。
そう、トンネルの向こう側に。