【エッセイ106】思い込みという透明なガラスにヒビを入れるのは?

「えっ、82歳まで全国を自転車で走っていて、それが10年前ということは・・・」

 

研修前に立ち寄った駅近くのカフェに一人のタンクトップを来たおじいさんがいた。

「今日も暑いですね」

「そうですね。しばらく暑さが続きそうですね」

どちらからともなく、挨拶を交わす。

ふと、椅子を観ると、自転車のロードレーサーが被るようなスタイリッシュな細長いヘルメットが置いてある。

「ロードレース用の自転車に乗っているんですか?」

何気なく聞いてみると、

「えぇ、今はそんなに乗ってないですが、昔は全国の山を走ったものです」

「そうなんですか、自転車で全国を走っていたんですか?」

「いや、現地までは電車や船で自転車を積んでですよ。もう10年ぐらい前の話です」

 

んっ? 10年前?

パッと見て70代に見える男性。ということは、60歳ぐらいまで走っていたのかな。今のお年寄りは元気だというけど、本当にその通りだなぁ。

一人で感心しながら、「ところで、失礼ですが、おいくつですか?」と尋ねる。

「今、92歳です」

「92歳!?」

「えぇ」

「ということは、82歳まで自転車に乗っていたんですか!?」

「えぇ、そうですよ」

いやいや、アッサリとおっしゃいますが、その見た目からは、とても92歳には見えないし、82歳までロードレース用の自転車で全国を回っていたとも思えないですよ。

「暑い日が続きますから、お大事に」

「おじいさんもお大事に」

先に店を出ていったおじいさんの後ろ姿を見ながら、あんな風に元気で長生きできる生き方もあるんだと新鮮な気持ちで胸がいっぱいになった。

 

「私たちは思い込みの中に生きているが、そのことに全く気づかずに生きている。」

そんな言葉を聴いたことがあります。

そんな思い込みという強固な透明のガラスに気づくことができるとしたら、その透明なガラスに何かがぶつかったときかもしれない。

強固なガラスもちょっとヒビが入ってしまうと、結構もろくなって割れてしまうこともある。

 

「新鮮な驚き」

透明な思い込みというガラスにヒビを入れ、新しい世界にいざなってくれるちょっとした小石。

さて、今日はどんな驚きがあるだろう。