【エッセイ88】自分とのコミュニケーションって、どうすれば上手くなるの?
「えっ、私は一人しかいないし、ちょっと何言ってるかわかんないです」
20年に渡ってライフコーチングのプロとして300人を超えるクライアントさんの目標達成や課題解決のサポートを1対1の面談(セッション)で提供してきました。
コーチングには、指示命令というスキルはありません。
なので、コーチがあなたに「こうしろ、ああしろ」「こうしなさい、ああしなさい」と言うことはありません。
もちろん、責めたり、咎めたりすることもありません。
「お前が悪いんだ」「なんでできないんだ」と言うこともありません。
そういう言葉を使わないので、コーチングを学んだ方からは、上司部下の関係や親子関係、夫婦関係が、「前より良くなった」「最近、スムーズにコミュニケーションが取れるようになった」という声をよく聞きます。
他の人とのコミュニケーションが良くなり、人間関係も改善される。
けれども、そんなコーチングスキルが高いと言われる人たちでも、一様に「難しい」と言う関係があります。
一体、それは誰との関係でしょう?
察しの良い方はお分かりかもしれません。
そう、「自分自身」との関係です。
他の人たちとの関係は良くなっているのに、自分自身との関係はコーチングを学んでいる人でも、「難しい」「なかなかうまくいかない」という人がいるのはなぜか?
何を隠そう、私自身もその一人でした。
何日も落ち込んでいたり、どうしたらいいか途方に暮れていたりするクライアントさんでも、コーチングをすると1時間ほどで、気持ちを切り替えて、前向きに動き出す。
そんな場面を山ほど見てきましたが、自分自身に対してはどうかと言うと、落ち込んだら結構落ち込みっぱなし。気持ちもなかなか切り替えられない。
クライアントさんにコーチングするようにはうまくいかない。
「自分自身に対するコーチングがなぜ難しいのか?」
いくら考えても、一人ではその答えを見つけることができませんでした。
ですが、数年前、コーチングの原点と言われている「ある本」と出会ったとき、
「そうか! だから、自分自身へのコーチングがこんなにも難しかったんだ!」
という目から鱗が落ちる気づきがあったのです。
その本に書かれていたことを一言で要約すると、
「あなたの中には、二人の自分がいる」
ということでした。
こう書くと、
「えっ、私は一人しかいないし、ちょっと何言ってるかわかんないです」
と、思うかもしれません。
私も最初は、そうでした。
でも、読み進めていくと、「そうか、そういうことか!」という瞬間に出会ったのです。
二人の自分のことを、その本では「セルフ1」と「セルフ2」と呼んでいました。
簡単に言うと、指示命令するのが「セルフ1」
その指示命令を受けて行動するのが「セルフ2」
自分の中の指示命令する「セルフ1」が「セルフ2」に対して、
「なんでさっさとやらないんだ」
「ちゃんとやらないとダメでしょ」
「もっと早くやっておいたら良かったのに……」
「まだまだやらなきゃ、これぐらいで満足したらダメだ」
「間違っちゃダメ。失敗したらダメ」
と責めたり、咎めたりするようなコミュニケーションをすると、「セルフ2」は、焦ったり、怖くなったり、不安になったり、イライラしたりして、逆に思ったように動いてくれなくなる。
ですが、「セルフ1」が「セルフ2」に対して、
「次は何をしようか?」
「本当はどうしたい?」
「まず何からやってみる?」
「上手くいったことは何?」
「今、どんな気持ち?」
と、まるでクライアントさんに言うときのように、自分の中にいる「セルフ2」を尊重するコミュニケーションを取っているときは、「セルフ2」は安心するし、気持ちも大切に扱ってもらえていると感じるので、自然と動きだす。
(そうか! クライアントさんにコーチングをするときのように、「セルフ2」を尊重して関わってあげたらいいんだ!)
(あまり、あれこれ細かく言わず、「セルフ2」を見守ってあげるだけでもいいんだ!)
そう、「セルフ2」は小さな子供と同じで、あれこれ言われるのが嫌いなんですよね。
かといって、放っておかれるのも寂しくなる。
公園の砂場で遊んでいる小さい子供を、お母さんがベンチに座ってゆったり見守っている感覚。
(あの感覚のように、自分の中の「セルフ2」を見守ってあげるとき、「セルフ2」は安心してのびのびと動けるんだ……)
クライアントさんに接するように、自分の中の「セルフ2」に関わる。
それが、自分自身との関係をよくするコツだったのです。
「あなたの中には、二人の自分がいる」
このことを教えてくれた本のタイトルは、「インナーゲーム」
この「インナーゲーム」、コーチングの原点と言われているのに、コーチングに興味がある人でも、長年学んでいる人でも案外知らなかったりします。
が、それも仕方ありません。
だって、この本、テニスがうまくなるための指導書ですから。