【エッセイ97】「先延ばし」してしまうのは、理由がある!?

「どうしたら先延ばしのクセが治りますか?」

クライアントさんからよく相談されるテーマの一つが、この「先延ばし」をなんとか止めたい、というものです。

ずっとためていた夏休みの宿題を最後の日にギリギリに片付ける。
「来年はもっと早く宿題を済ませて、あとはいっぱい遊ぼう」
そう決意するも翌年もまたその次の年も同じことを繰り返す……

それと同じように仕事でも、十分に取り組む時間はあるにもかかわらず、ギリギリになってからようやく手を付け、毎回ハラハラドキドキしながらも、なんとか最後は締め切りに間に合わせる。

もっと早くに片づけたい、焦って仕事をしたくない。
でもなぜか、いつもギリギリになってしまう。
そんな自分の悪癖をなんとか治せないだろうか?

これはクライアントさんだけの課題ではなく、私自身の課題でもあります。

研修やセミナーのコンテンツを作るときは、いつも締め切り間際になってなんとか形にするということを繰り返していました。

そんなことを繰り返していると、研修やセミナーをすることがイヤになるし、苦手意識も強くなります。

結果として、自分から研修やセミナーを積極的にすることはなく、頼まれたら頑張ってコンテンツを作るということが続いていました。

どうしたら先延ばしのクセが治るだろうか?
これはなんとかしないといけない。

そう思って、早めに早めにコンテンツを作ろうとしても、気分は乗らないし、アイデアは出てこない。ただただ、時間だけが過ぎていく。

「あぁ、今日もまた時間を無駄にしてしまった……」

そう後悔し、自己嫌悪になる。

次こそは! と決意するものの、また同じことの繰り返し。
挫折感と後悔、自己嫌悪だけが増えていく。

このパターンを何度も何度も繰り返すと、さすがに気づきます。

そう、気合だけではどうにもならないということが。

あるとき、何がキッカケだったかは覚えていませんが、「先延ばしって、本当にダメなことなんだろうか? 悪いことなんだろうか?」という疑問が、ふと湧いてきました。

「先延ばし=悪いこと」

そんな方程式をずっと信じてきたから、なんとかこの悪癖を治そうと躍起になっていたことに気づいたのです。

「先延ばしをしたくなるとき、いったい自分に何が起きているのだろう?」

自分を責めることなく、ちょっと他人事のように「先延ばし」を客観的に眺めてみました。

すると、思いがけない記憶がよみがえってきたのです。

 

 

高校時代、私は陸上部に所属していました。

どんなスポーツでもそうですが、試合当日にベストパフォーマンスが発揮できるようにするために、試合前に体の状態を調整します。

これを「ピークを本番に持ってくる」と言って、調子の良い状態を早すぎず、遅すぎず、試合当日にちょうど持ってくるように練習量を調整するのですが、これがなかなか難しい。

試合直前までキツイ練習をすると、本番に疲れが残ってベストパフォーマンスは出ない。
かといって、あまりにも軽い練習ばかりだと筋力や持久力も落ちるので、これもまたベストパフォーマンスが出ない。
そのギリギリのところを毎回、試行錯誤していたのです。

その陸上時代の体験を思い出したときに、ふと別の記憶が浮かんできました。

かつて、企業研修のコンテンツを作っていたときのこと。いつもはギリギリに仕上げるのに、なぜかそのときは2週間ほど早く完成したのです。

出来上がってホッとしたのか、そのままにして、当日を迎えました。

しかし、2週間前にリハーサルしたときは、あれほど滑らかに話せていたのに、いざ本番を迎えると、あのときスラスラ話せていた自分が一体どこにいったのかというぐらい、しどろもどろになってしまったのです。

「もしかしたら、ギリギリになるというのは、ピークを研修当日に持っていくためなのかもしれない」

そう気づいたとき、今まで「先延ばし」に対して持っていた悪いイメージ、イヤなイメージがちょっと緩んだのです。

 

「自分の中には、二人の自分がいる」という話を、コーチングを習い始めた頃に教えてもらったことがあります。

一人の自分は、頭の中にいる。もう一人の自分は頭から下の身体の中にいる、と。

頭の自分は「早くしなきゃ!」「間に合わなかったらどうしよう……」と焦ってばかりいたけれど、身体の自分は本番で力を発揮するために、グッと集中するタイミングを知っていた。

そう、もっと身体の自分を信頼してあげたらよかったのです。

じゃあ、このことに気づいて、頭の自分は焦らなくなったのか?

いやいや、頭の自分は相当な心配症。
そんな簡単に焦りは消えたりしません。

うーん、頭の自分と身体の自分の両方が満足する方法はないだろうか?

……あったのです。
どっちも満足するうまい方法が。

それが、ピークを2回作るということ。

頭の自分は早く完成させて安心したいと思っている。だから頭の要望をまず聞いてあげる。
つまり、締め切りの2週間ほど前に、そのまま出しても問題ないレベルまでコンテンツを仕上げる。

一方、身体の自分は、直前になってグッと集中することで、本番にピークを持っていけると知っている。

早めに作ったあとは、ワインを熟成させるかのようにしばらく寝かして、一日、二日前になったら、もう一度見直す時間を取って、集中して準備をする。

このやり方をするようになってからは、焦りも減り、寝かしてから直前に見直すので、さらにアイデアも加味されてと、ピークを本番に持っていけることが増えました。

先延ばしをするというのは、単に自分が怠け者だからというわけではありません。
そうしたほうがいい理由が必ずあるのです。

私の場合は、研修当日にピークを持ってくるためでした。

もしあなたが先延ばしをするクセをなんとかしたいと思っていたら、こう問いかけてください。

「先延ばしをすることの、良い面って何だろう?」

頭の自分はダメだと思っている「先延ばし」にも、身体の自分はそれが大事だとわかっているからそうしている。

身体の自分が知っている「先延ばし」の良い面を、ぜひ探ってみてください。

その理由に気づいたとき、あなたはきっと驚くでしょう。